転職と人生哲学

変化の激しい時代,価値創造の形が多様化しています。転職も当たり前になりつつありますが、そこで大切なのは、時代の潮流を見極めながら、自分のポテンシャルを最大限に発揮できる場所を探すことです。いわば「敵を知り、己を知れば、百戦して危うからず」という言葉と通じるものがあります。ここでの敵とは社会の大きな流れであり、己とは自分の性質のことです。

今の社会において、さまざまな価値創造がなされていますが、まだまだ人間には発揮しきれていないポテンシャルが潜んでいるように思います。価値創造の形を考える前に、人間に与えられた能力を整理すると、「体力」「知力」「精神力」の3つに大別されます。価値創造の形が変化する中で、ここに求められるもの能力も移り変わっていると感じます。具体的には「体力」や「知力」を価値創造に繋げる流れはビジネスにおいて一般的でしたが、「精神力」をビジネスの局面で発揮できている人は、まだまだ少ないように感じます。アバウトでイメージが掴みにくいと思いますので、これまでの価値創造の変遷を整理します。

第1期。人間は「体力」を武器として価値創造をしてきました。農作業や狩りに始まり、工業も始めは手作業でした。

第2期。産業革命により、価値創造の形が変わりました。「体力」を武器として生み出していた価値は、機械の力によって大体されました。その中で、人間は機械を上手く使いこなすという観点から、「知力」を武器とした価値創造へ転換されていきました。

第3期。デジタル革命やデジタルシフトと呼ばれる流れが来て、コンピューターが台頭しました。コンピューターは、正しい答えを素早く導き出す能力に長けています。そのため、人間の「知力」のうち、「答えのある問いに対する知力」は価値を失い始めました。これからは、「答えのない問いに向き合う知力」を養わなければ、人間ならではの価値創造が難しくなってきます。

第4期。ソーシャルシフトと呼ばれ、人間の「精神力」が試される時代になっています。ただ利益追求するという単純で固定化されたルールでのゲームでは不十分となり、持続可能性や社会課題と利益追求との両立をいかに可能とするか、ビジネスと社会的正義との両利きの采配が必要となってきているためです。そのような大きな流れの中で、私益から公益へ、組織運営の軸は人間性の尊重となり財務資本から人的資本へ、事業運営ではガバナンスファーストで利益以上に誠実さが求められます。最近では、仕事に対して、お金よりも社会的意義を求める人達も増えてきているようです。このようにゲームのルールがドラスティックに変わる中で、答えのない問いが溢れかえり、どのように課題設定するのか、どのように解決策を提示するのか、個々人の精神力が大きく反映される時代になりました。

では、ここでいうビジネスの局面で発揮する「精神力」とは何かを考えてみましょう。抽象的に言えば、ありのままの人間味やアイデンティティの発揮とでも言えるでしょうか。具体的なキーワードとしては、人間性、人格主義(能力主義でなく)、面白がり力、探究心、自走力、自燃力、意志、意思(自分はどうしたいか)、人望、徳、リーダーシップ、着火力、ダイバーシティ(違いを認める力)、インクルーシブ、人生哲学(自分はどうありたいか)、道徳、夢、希望、精神性、などでしょうか。今の日本の教育体制は、答えある問いに対して、いかに正確に素早く処理するか、に特化したものになっています。「体力」や「答えのある問いに対する知力」に焦点を当てた教育とともに戦後の日本を復興させてきた成功体験から抜け出せずにいるように感じます。上記の価値創造の変遷を鑑みると、「答えのない問いに向き合う知力」や「精神力」にフォーカスした教育体制を作っていく時期が来ているのではないでしょうか。一方向で教える教育ではなく、双方向で意見を出し合ってより良い解をみんなで作り上げていく。そういった環境が求められるのではないかと考えております。

このような価値創造の変遷を受け、組織としての好ましいあり方も変わりつつあります。「体力」や「答えのある問いに対する知力」で価値創造するフェーズでは、統制が鍵でした。いかに正しく素早くこなすかで勝負が決していました。一方で、「答えのない問いに向き合う知力」や「精神力」で価値創造するフェーズにおいては、メンバー個々が自走し、自発的な連携の中でイノベーションが生まれる環境作りが鍵になります。


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